F1エンジンのMGU-H(Motor Generator Unit – Heat)は、ターボチャージャーの
排気熱エネルギーを電気エネルギーに変換する非常に重要なコンポーネントです。
その詳細な構造と仕組みは、F1パワーユニットの効率とパフォーマンスを最大化するために
不可欠な技術となっています。
MGU-Hの基本的な構造と機能
MGU-Hは、ターボチャージャーのアセンブリの一部として組み込まれています。
ターボチャージャーは、エンジンの排気ガスによって回る「タービン」と、そのタービンと
同じシャフトでつながった「コンプレッサー」から構成されます。
コンプレッサーは空気を圧縮してエンジンに送り込み、燃焼効率を高めます。
MGU-Hは、このタービンとコンプレッサーをつなぐシャフトに直接接続された
「モーター/ジェネレーター」ユニットです。
主な機能は以下の2つ
1. 熱エネルギーの回生(発電)
エンジンから排出される高温の排気ガスは、ターボチャージャーのタービンを高速で
回転させます。 MGU-Hは、このタービンの回転エネルギーを利用して発電を行います。
つまり、熱エネルギーを回転運動に変換し、さらにその回転運動を電気エネルギーに
変換するわけです。
発電された電気エネルギーは、ES(エネルギーストア、バッテリー)に蓄えられたり、
MGU-K(運動エネルギー回生ユニット)に直接供給されてエンジンのアシストに
使われたりします。MGU-Hで回生されたエネルギー量には、レギュレーションによる
制限がない点がMGU-Kと異なります。
2.ターボラグの解消(モーターとして作動)
ターボチャージャーの欠点の一つに「ターボラグ」があります。
これは、アクセルオフの状態からオンにした際など、排気ガスの量が少ない時に
タービンが十分に加速するまでに時間がかかり、過給が遅れる現象です。
MGU-Hは、モーターとして動作することで、このターボラグを解消する役割も担います。
ESに蓄えられた電気エネルギーを使ってMGU-Hを駆動させ、タービンを強制的に回すことで、
排気ガスが少ない状況でも素早くターボチャージャーを適切な回転数まで引き上げ、
即座に過給圧を発生させます。これにより、ドライバーはよりリニアな
加速フィーリングを得ることができます。
MGU-Hの構造的特徴
一体型設計: MGU-Hはターボチャージャーと物理的に一体化されており、排気側のタービンと
吸気側のコンプレッサーをつなぐ共通のシャフト上に配置されます。これにより、
エネルギー変換の効率を高め、コンパクトなパッケージングを実現しています。
高回転対応: F1のターボチャージャーは非常に高速で回転します
(最高125,000回転/分に達すると言われています)。MGU-Hもそれに合わせて、この超高速回転に耐えうる設計とされています。
高温環境下での動作: 排気ガスは1,000℃を超える高温に達するため、MGU-Hはこのような
過酷な熱環境下でも安定して動作できる素材や冷却システムが必要とされます。
信頼性確保のために、シャフト支持部は加圧構造とし、オイルでシールされています。
軽量化と高出力化: レギュレーションで最低重量が4kgと定められているものの、
高いエネルギー回生能力とモーターとしてのトルクを両立させるため、高磁束密度の磁石や
熱伝導率の高い絶縁体など、最先端の素材や技術が投入されています。
冷却システム: 高温環境下での安定稼働のために、効果的な冷却システムが不可欠です。
なお、2026年からの新レギュレーションでは、MGU-Hは廃止される予定です。
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